ITニュース六時五分:人工知能が東大合格する日がくると大手企業は学生を雇わない?

ITニュース六時五分:人工知能が東大合格する日がくると大手企業は学生を雇わない?

0605_201411123/12に開催された「Cloud Days Tokyo/ビッグデータEXPO/スマートフォン&タブレット/Security/IoT Japan」でNII(国立情報学研究所)の新井紀子教授が『東大ロボプロジェクト』について講演しました。

東大ロボプロジェクトは、人工知能に東大入試を受けさせて、東大合格を目指すというものです。これだけだと、「はぁ? そんなことして何の意味があるの? 面白いかもしれないけど、そんな入試問題が解けるロボット作ったって、研究者の自己満足じゃない?」って思いますよね。

しかし、そこには、これからの社会を大きく変えていく、いや、いやでも変化していく社会の先を見越した研究が隠されています。

そもそも、大学入試は、一科目だけではありません。日本史や地理の問題もあれば、数学や物理の問題もあります。英語のヒヤリングだって行われます。そうなると、単に文字が読めればいいだけでなく、地図や写真を理解しないといけないし、図や表を読み解くことが必要ですし、ヒヤリングでは聴くことができないと回答できません。単純な機能ではなく、さまざまな機能を組み合わせた人工知能が必要になるのです。

また、最近流行のビッグデータ+人工知能というのは、何百万、何千万、いや、億という単位のデータを集めて、そこからルールを見出すということを行っています。IBMのワトソンが、その代表ですが、過去のお客様とのやりとりを大量に読み込んで、どういう回答をすべきかという最適解を出してくるということをやっています。

しかし、東大入試は、過去の入試問題を集めたところで、10年程度しかありません。それよりも過去のデータを集めたところで、教えている内容が違ってきているので役に立たないですよね。東大模試とか、参考書とか問題集とかかき集めたところで、書店に置いてある本の数ぐらいしかありません。1冊に500問出ていても、100冊集めたところで、5万です。100万件の問題を集めようとすると、2千冊の問題集を集めないといけないのですが、世の中にはそんなに存在していません。しかも、新しい問題集が出ても、ほとんどは過去の問題集と同じものが多いですよね。お客様サポートセンターに1日1000件の問い合わせとしても、1年で36万5千件集まるのですから、3年で100万件突破します。これぐらい違いがあるのです。

これが何を意味しているのかというと、ワトソンのように大量のデータからルールを見出すという方法は難しく、少ない問題の中からルールを見出すという人間に近いことを人口知能で実現しないといけないのです。人間は、コンピュータのように何百万件といったデータを扱うことはできません。あなたが『犬』と『猫』を区別できるのも、多くても数千のデータだけで『犬』や『猫』を区別できるようになっています。ましてや、『虎』とか『ダチョウ』なんて数百ぐらいのデータではないでしょうか? でも、どんなものか区別できますよね? 東大ロボプロジェクトでは、これと同じように東大入試に関する数千とか数万といったデータから理解しないといけないのです。

特に難しいのが、『概念』の理解。入試問題に限らず、日常のさまざまな問題を解決するのに、人間は、過去の経験などから無意識に理解していることがものすごく多い。たとえば、日中は太陽の光が当たって明るいとか、日中でも室内なら暗い、夜は照明をつける、寝るときには消す、日常生活では重力が働いている、風邪が吹く、蛇口をひねれば水が出る・・・・と、このようなことを経験から覚えています。入試問題も人間が作るので、このようなことはわざわざ説明していません。そういうことを人工知能にどうやって学習させるのか、推測させるのか? これ、かなり大きなテーマなのです。

さらに、東大ロボプロジェクトで入試問題を解けるようになっていくと、仕事がどんどん機械に置き換わることになっていきます。特に、すでにデータがデジタル化されているコンピュータで仕事をしているような職業は、人間にやらせるよりもコンピュータでやった方がミスが少なくなることでしょう。そこには、ルール化された判断業務が多くなると、そこはルールさえ人工知能にマスターさせれば、それに、ルールを覚えること自体も人工知能が勝手にやるようになるので、『教育』する必要すらなくなるコンピュータの方が人を雇うよりはるかに生産性が上がります。

そうなると、人間は何をするのか?って話ですが、マニュアル化されない仕事、人間が、マニュアル化する必要すら感じないほど簡単な仕事(と思っているだけですが)が残っていきます。

あっちこっちで、言ってるのですが、道路の水道管工事で穴を掘るってのは、ロボットにはとても難しい仕事で、かなり先まで人間がやる仕事になるでしょう。というのも、人間に穴を掘るというのを指示するのは、ものすごく簡単でマニュアルなんて必要ない仕事の一つですが、実は、かなり高度な判断能力を要求されているのです。まず、水道管と土を区別できなければ、水道管を割ってしまいます。水道管だけが埋まっているのならいいのですが、ガス管や電線が埋まっているかもしれません。場合によっては、図面が間違っていて、水道管の位置がずれているかもしれません。また、土の色だって、場所によって全然違いますし、乾いているとき、濡れているときも違います。大きな石を取り除く必要だってあるでしょうし、不発弾とか歴史的に貴重な土器が出てくるかもしれません。場合によっては、金貨が出てくるかもしれません。こういうことを人間は難なく処理していく(掘り進めていいのか、それとも、手を止めて報告した方がいいのか)のです。

これをロボットに教えるのは、ものすごく大変です。穴を掘って、何が出てくるかなんて予測できないので、すべてを教えることなどできません。かといって、何百万件という穴掘りの家庭を撮影した動画や写真データは存在しません。

他にも、引っ越し作業とか、片づけ、洗濯物をたたむ、靴を磨く・・・・。こういう簡単と思っている仕事、マニュアルにするまでもない仕事をロボットやコンピュータにやらせるのは、ものすごく大変なんですよね。つまりは、そういう仕事こそ人間ならではの仕事であり、もっと高給取りになっていいはずなのです。

本日のニュースネタ

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/031300912/

「ロボットは東大に入れなくても、確実に人間の仕事を奪う」、NIIの新井教授

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